【別冊】ルルナル『朗読の部屋』短編の間百八十一夜〈後編〉

【別冊】ルルナル『朗読の部屋』短編の間百八十一夜〈前編〉はこちら


親友に誘われて訪れた怪奇な『廃屋』

気が付くと親友の「和也」と和也の彼女の「早苗」は『廃屋』に入って行ってしまう。

そして一人取り残された僕は…


開いていたはずの『廃屋』の勝手口の扉は押しても引いてもビクともしない。

一体どうなっているんだ?

怪奇な場所と噂になっている『廃屋』で異常に事態が起こっている。明かりは僕の持っている懐中電灯のみ。周囲は高い木々に囲まれて誰かに見られている気もする。

逃げ出したい気持ちはあったが二人を放っておくわけにはいかない。

その思いが僕の中から沸き起こる恐怖を抑えつけている。

僕は再度『廃屋』の周囲を調べなおし、中に入れないかを探したがなかなか見つからない。携帯で時間を確認すると和也と早苗が入ってから10分が経過していた。

そうだ! 携帯だ。

慌てていた僕は中に入る事ばかりを考えていたが、和也も携帯電話を持っているのだ。急いで和也の携帯番号に発信する。

「トゥルルル トゥルルル」

頼む…出てくれ!

「トゥルルル トゥル ガチャ」

出た!

「和也? 大丈夫か?!」

「・・・・・・・・・・・・」

電話は確かに繋がっているのだが僕の呼びかけに応じる様子がない。

「和也? 早く出て来いよ。 聞こえてるか?」

「・・・・・・・・・・・・・」

続く沈黙。もしかして混線でもしているのかもしれない。掛け直したほうがいいかと一旦電話を切ろうとした時。

「・・・・・・こ・・・・ここ・・・・・・いる・・・・・・・」

やっと聞こえるような小さな声が携帯から聞こえた。

「和也? 無事か? 彼女も大丈夫か?」

「ここ・・・・・・だか・・ら・・・・いや・・・・だ・・・・・」

僕の問いかけに対する返事ではないのか、途切れ途切れに言葉が聞こえてくるだけだ。そもそも和也の声なのかも分からないくらいに小さく聞き取りづらい。

「いや・・・・・・だってぇぇぇぇ・・・・・・・・」

突然大きな声が聞こえたかと思うと電話が切れてしまった。僕は急いで掛け直したが

〈お掛けになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめになって…〉

と録音された音声ガイダンスが流れた。

「電源が切れている」とアナウンスするなら分かるが 【使用されていない】とは変だ。僕が掛け間違えたのかと思ったが、発信履歴からリダイヤルしているのだからあり得ない。

それでも何度か掛け直したが【使用されていない】という音声ガイダンスは変わる事はなかった。

時刻は午前3時になろうとしていた。二人が『廃屋』に入ってから1時間以上が経過している。相変わらず『廃屋』に侵入出来る場所は見つからず、電話も使用れていないとガイダンスが流れるだけ。もう僕自身が限界になっていた。

携帯電話を再度取り出して番号をプッシュする。

「はい110番です。事件ですか? 事故ですか?」

僕は警察に電話していた。学校や親にもばれて怒られるだろうとは思ったが、二人を助ける手段が他に思い浮かばなかったからだ。

「実は…」

僕のかけた電話は地域担当の警察署に転送されて担当者に直接事情を話す事になった。

「そうですか…詳しい場所は分かりますか?」

「すいません。県道沿いの自動販売機が二台並んでいる場所です。車を狭いスベースに駐車してあります」

「それだけでは…貴方の携帯の位置情報も検索しているんですけど…うまく拾えないな…」

「お願いです!友達が出てこないんです!」

警察にとってはよくある話なのだろうか。危機感の感じられない若い警官の態度に思わず大きな声を出してしまった。

「うう~ん…あっ!ちょっと待っていて下さい」

電話の向こうで何か会話しているのが聞こえ、年配らしい男性警官に対応が変わる。

「もしもし 君はその『廃屋』の近くにいるのか?」

「えっ? はい…友達が…」

その年配の警官は僕の言葉を遮り…

「いいか! すぐに車まで戻りなさい。そして自動販売機の前で待っていなさい。今すぐ我々が向かうから」

「でも…友達がまだ中に…」

「我々が到着したら一緒に探す。今すぐに車に行くんだ!」

先ほどの若い警官とは真逆の必死さに気圧され、僕は電話を切ってすぐに元来た道を引き返し始めた。ちらっと『廃屋』を振り返った時、確かに閉まっていたはずの正面玄関の扉が揺れているのが見えた。

スポンサーリンク

開いている?

一瞬、和也を助けられるのではと思ったが、警官の必死な、どこか怯えた感じの声が頭の中で再生されて結局僕は車まで引き返す事にした。

この時の選択が正しかったのか、間違っていたのかは今でも分からない。

和也の車と自動販売機まで戻り警察の到着を待った。時期は5月の中旬で朝晩はそれなりに冷える。車の中に入りたかったが鍵は和也が持っているので仕方なく警官に言われた通りに自動販売機の前で立っていた。

パトカーは15分程で到着し、和也の車の真横に停車すると3人の警官が降りてきた。その中で一番年配らしき警官が僕に近づき、

「馬鹿野郎!」

僕は突然警官に怒鳴られた。そりゃあ確かに良くない行動だとは思うが、いきなり怒鳴られるとは。唖然としている僕にその警官は続けた。

「無事で良かったな…ちゃんと自動販売機の前で待っててくれて良かった!」

警官が本気で心配してくれていた事がわかり、僕は無性に自分が情けなくなってしまった。

ここで結論になってしまうのだが、その後の『廃屋』での和也と早苗の捜索に僕は同行させてもらえなかった。話が違う、と反論をしたが僕自身の精神的な疲労も酷く結局は警官の方々に任せて、僕は遅れて到着したパトカーに乗せられて警察署に向かった。

警察署で温かい缶コーヒーを渡され、和也と早苗の本名や住所(早苗の場合は分からないのでバイト先を)を警官に説明して、休憩室のような部屋のソファーで少し休むように言われが和也達の事は気になっていたので眠る事は出来なかった。

午前6時頃、あの年配の警官が帰ってきて説明を受けた僕は愕然とした。

和也と早苗は見つからなかったのだ……

そしてその日以来、今日に至るまで僕は和也とは会っていない


【後日談】

その後は色々と大変だったので簡単に説明しておく。

・和也と早苗が見つからなかった事で、僕は警察に疑われなかったのか。

僕自身も僕が二人をどうかしたのではないか、と疑われると思っていた。

何度か警察署に呼ばれて事情聴取を受けたが、興味本位で『廃屋』に行った事を敷地内の不法侵入になるとかで怒られはしたが不思議な事に疑われる事はなかった。

早苗と和也のバイト先で二人が『廃屋』に行く計画をたてている事をしっている者が複数いた事と大学の食堂での和也と僕の会話を聞いていた生徒が複数人いた事で疑いから外れたのも一つの理由だと思う。

・二人の両親や学校はどうしたのか

和也の両親は僕も知っているので、かなり恨まれていると思う。

和也のお母さんには掴みかかられたからな。

頭では和也から誘われて、という事を理解してくれているとは思うが、これは仕方ないと思った。高校が同じとはいえ、実家同士は別の市だったので出来るだけ接点を持たないように過ごしている。

早苗の両親とは合わせないように警察は配慮してくれた。

学校では若干噂の的にはなったが、先述した食堂での会話を聞かれていた事から『廃屋』の恐ろしさの方が広まってしまって、その話を聴きたがる者が増えたくらいだ。

勿論、僕は何も話さなかったけど。

・警察の捜査の結果は?

僕自身も一番気になっていた事だ。警察は最低限の事意外はなかなか教えてくれなかったが、和也の両親が僕を責めた時の言葉や、卒儀後に知り合った友人の兄弟が警察官だという事から可能な限り集めた情報を記す。

①『廃屋』で和也と早苗は見つからなかったが、二人の靴が一つの部屋の入り口にきちんと揃えて置かれていた。

②『廃屋』は昭和二十年代に「芸術家」が世俗を離れて創作活動に励む為に建てた自宅兼仕事場らしい。だが、土地の管理をしていた当時のお役所との交渉を待たずに強引に建築を進めたらしく、芸術家の浮世離れした性格も手伝い、世間にうまく馴染めなかったのではないかとの事。妻と娘がいたらしい。

今なら自分の土地ではない場所に強引に家を建てるなんて考えられないが、戦後の混乱の中で何かが間違ったのかもしれない。

今でも取り壊されない理由は不明。

僕を救ってくれた警官の態度から、過去にも同様の事件は起きているらしい。これはあくまで公式な話ではないので「らしい」としておく。

今思えば「自動販売機の前」で待つ事に警官は拘っていたように思うし、経験から何かを感じ取っているのではないだろうか。

余談だが『廃屋』には様々な噂があり実際に行こうとする者が多いのだが、何故か殆どは

辿り着くことが出来ないらしい。確かにあの夜もそうだった。

結局は何も分からず、僕は親友を失ってしまった。早苗にしても自分から望んだとはいえ哀れだ。

警官に救われて僕は就職して結婚して幸せに生きてきた。

僕は今『廃屋』に続く自動販売機の横に立っている。何もかもがあの時のままだ。ここまですんなりと辿り着くことが出来たから『廃屋』は僕を覚えてくれているようだ。

安心してほしい。仕事はきちんと引き継いで退職届も出してきたし、妻とは話し合って正式に離婚した。子供は作らなかったし。両親の傍には妹夫婦がいてくれる。

さあ、正面玄関から『廃屋』に入れるはずだ…今日は久しぶりに和也と酒盛りでもするか。

スポンサーリンク
パソコンh2上
パソコンh2上

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする