【別冊】ルルナル『朗読の部屋』短編の間百八十六夜

 【別冊】ルルナル『朗読の部屋』短編の間百八十六夜 

2018年3月13日

ルルナルの『朗読の部屋』短編の間 百八十六話を公開しました。

朗読した話は、

『古いオルガン』

オルガンではありませんが『音楽室』は学校の七不思議等での定番ですよね。

そこで今回の別冊は楽器つながりで『音楽室』のお話をお届けします。


『視線』

俺の学校にも七不思議があった。
トイレの個室から声がするとか、階段の段数が増えるとか、美術室で夜な夜な絵を描いている人影があるとか…。
そんな中に定番の『音楽室』に関するものも漏れなく存在した。
それは…
『音楽室』に飾られた音楽家の肖像がこちらを見ている
という、これまた定番の内容だった。
子供だった俺はクラスの人気者になりたくて週末の夜に学校に忍び込み、七不思議を確かめる計画を立てた。
懐中電灯、カメラ付きの携帯電話を持って、夜の10時に家を抜け出して学校に向かう。
校門は当然閉まっていたが金網が破れている箇所があるのでそこから侵入。校舎はあらかじめほとんど人が使用しない物置部屋の窓の鍵を開けておいた。
夜の学校は想像よりも遥かに不気味だ。普段は数百人の生徒が存在する場所に誰もいない、そこは見慣れた校舎なのに別世界に迷い込んだ気がする。
ここで一人で来た事を少し後悔したが、月曜に自分がクラスの中心にいる姿を想像した俺は七不思議の検証を始めた。

「夜中に段数が増える階段」
これは中央の階段だったが…検証結果は特に変化なしだった。

「3階の女子トイレ」
一番奥の個室から声がする、という噂でノックをして返事があると何処かに連れて行かれる。という内容だ。
七不思議の検証以前に女子トイレに入ること自体が後ろめたい。子供だからまだしも大人なら大問題だ。
それでも何とか検証して結果は声もしないし、年の為にノックをしてみたが変化なし。
やっぱり七不思議なんてただの噂だったな。

「音楽室の肖像画が見つめてくる」
信じてはいなかったし、何も起こらなくて内心ではホッとしていた。そして気を大きくした俺は三個目の噂の検証の為に『音楽室』にむかう。
ガラッ
『音楽室』の扉を開けるとヒンヤリとして空気が流れ出てきた気がした。
少し怖かったが、どうせ何もないという気持ちに後押しされて『音楽室』に入る。
後で気付いた事だけど、『音楽室』『技術室』等の特別教室は保管されている備品の盗難やノコギリ等の危険物の管理の観点から使用しない時は施錠されている。だからこの段階で普通に扉が開くのは変なんだ。像がこの時の俺は全くこの事実を忘れてしまっていた。
音楽家の肖像画は教室の天井近くにズラッと並べられている。音楽は正直苦手だったので興味はなかったが肖像画の音楽家達の殆どは威厳のある表情で笑顔は浮かべていない。俺はこの表情が苦手だった。
ベートーベン、モーツァルト…しばらく肖像画を見ていたが特に視線は感じない。この噂も出鱈目だったか、と少し疲れた俺はピアノの椅子に腰を掛けた。
その瞬間全身に鳥肌がたった!
誰かが自分を見ている? それがはっきりと感じられたのだ。
背後には今まで見ていた肖像画が並んでいる。俺は最初その肖像画が視線の正体だと思ったが、視線を感じる方向が違う。視線はピアノに向かって座る俺の正面から感じるのだ。
『音楽室』のピアノはグランドピアノではなく、「アップライトピアノ」と呼ばれるタイプだ。

ピアノの背後には何もない。でも視線はピアノの方向から感じる。喉がカラカラに乾いて全身に悪寒が走る。俺は自分の視線をピアノの鍵盤から少しずつ上に移動させた。

そして俺たちは目が合った…

アップライトライトピアノの戸棚のようになっている部分が少し持ち上がり、そこから「その者」が俺を見ていた。
血走った眼…眼の部分しか見えないから男なのか、女なのか。子供なのか、大人なのかも判断出来なかったが、その眼が笑っている事だけははっきりと分かった。

そこからは覚えていない。気が付くと自分の家に帰っていたから無我夢中だったのだろう。
とにかく凄い体験をしたのだ。月曜にはクラスで自慢しようと思ったが出来なかった。
俺がその話をしようとすると必ずあの視線を感じるようになってしまったから。
それは『音楽室』にいなくても、そして今でも感じる。

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