【別冊】ルルナル『朗読の部屋』短編の間百八十一夜〈前編〉

 【別冊】ルルナル『朗読の部屋』短編の間百八十一夜 

2018年2月25日

ルルナルの『短編の間』百八十一夜を公開しました。

『滝不動』

恐ろしい場所のようですね。リスナーの方からも地元で怖い場所だと教えていただきました。

さて、怖い場所や危険な場所には近づいてはいけません。高い場所からから飛び降りると危険だと感じるように人間の本能は危険を避けるように本来は出来ています。

では何故、危険な場所に踏み込む者が出てくるのでしょうか?

人間の祖先が進化したのは「好奇心」から新しい土地に踏み入り開拓したから、という話を学生時代に講義で聞いた記憶がありますが、心霊スポットに踏み入る事は進化の為の「好奇心」なのでしょうか?


【誘われて】

大学生だった僕には同じ大学に通う和也という友人がいました。

高校時代からの付き合いでしたので気軽に付き合える親友といえる存在でした。

大学を卒業してもう10年。そして和也とも10年以上会っていません。

あの日を境に…

「お願いがあるんだよ」

大学の食堂で「うどん定食」に夢中になっていた僕に和也が話しかけてきた。いささか興奮している様子だ。

「何? 代返ならしないよ。この前ばれたからな」

基本はまじめな奴なのだが最近の和也はちょくちょく講義に遅れて来たりしている。

「違うよ、実はさ…」

和也のお願い事はこうだ。

バイト先の女子大の女の子に人目惚れした和也はせっせと彼女へのアタックを繰り返し、バイトの時間も彼女に合わせていたらしく、最近の講義の遅刻や欠席はこれが原因との事。

そして1カ月程前に何とかデートに誘い、交際を続けてきたらしい。

「ふーん、良かったじゃん」

僕は大学三年にもなって彼女いない暦が年齢と同じだ、昔から知っている和也も同じだったはずなのに、一歩先を行かれたようで複雑な気持ちになった。

だが、和也の話は惚気話では終わらなかった。

「実はちょっと困っててさ」

「親友の僕に内緒で彼女を作ったのだ、困ればいいだろう」

と冗談半分に意地悪を言ってみたのだが、どうもいつもの和也らしくない。

「何があったのさ?」

「実は…」

その彼女…木山 早苗(きやま さなえ)は無類のオカルト好きで、ネット上の怖い掲示板や動画を観ては楽しんでいるらしい。そしてそんな早苗の夢は彼氏が出来たら掲示板にあるようなスポットに行って実際に体験したい。だとの事。

「和也さ…ホラー苦手だったよね?」

高校時代の修学旅行の肝試しで僕にしがみ付いていた和也。

ホラー映画にクラスの男女数人で行った時に途中でいなくなった和也。

僕は数年前の和也を思い出していた。

「そうだよ。 大の苦手だよ。 でもさ…」

やっと出来た彼女に頼りになる自分を見せたいのだろう。僕も男だから気持ちはわかるが。

「で、僕にお願いって? まさか…」

「流石! 一緒に来てくれよぉ」

眩暈がする。

親友に彼女を作るという先手を打たれた挙句、怖いスポットとはいえデートに付き添えというのだ。普通ならOKするはずがない。だが和也のホラー嫌いを身に染みて僕は知っている。僕に断られても和也は行くだろう。そして…

僕は自分のお人好しが嫌になった。

そういえば合コンでも「いい人ではある」って言われたっけ。

「で? 何処に行くんだって?」

和也の口から出た場所は…

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地元で最恐のスポット!

そこは大学のある街から車で役30分の場所にある。

県道沿いの深い森の中に一軒の『廃屋』があり、行った者は正気を失った、一家に災難が続いた、そもそも帰ってきた者がいない。こんな噂が絶えない場所だった。

僕たちの地元は隣の県になるが、そちらにも噂は聞こえてきていた。

ネットのような体験をしたい。それで初めての場所があの噂の『廃屋』なのか…

僕は今からでも断りたかったが、和也の顔を見るとそういう訳にはいかないらしい。

結局は今週末の金曜。23時頃に和也のアパートに集合する事になってしまった。

金曜の22時30分頃に和也のアパートに行き、和也の車で早苗との待ち合わせ場所に向かった。

初めて会う早苗は小柄で、僕の良く知る和也の好みにぴったりの外見だった。

ここで今夜の僕の立場だが。

・和也の親友(これは事実)

・インドア派のホラーマニア(僕にそんな趣味はない)

・どうしても「廃屋」に行きたいと泣きながら和也に頼んだ(蹴飛ばすぞ)

という何とも情けない設定に落ち着いた。

早苗は初対面の僕に対しても気さくに話しかけて来て、和也もいい子を見つけたな、と羨ましくなった。まあインドア派のホラーマニアとして見られていたので同士とでも思ったのかもしれないが。 僕も明日からは頑張ろうと思ったものだ。

車で県道沿いの森への入り口なかなか見つける事が出来ず、時間は既に1時になろうとしていた。早苗が助手席、僕が後部座席に座ったのだが背中越しにも早苗が不機嫌になっている事と和也が焦っている事が感じられる。

「事前に調べておけば良かったね」

「…うん…」

必死に話しかける和也に対する返事も素っ気ないものだ。出会ってから2時間程だが僕は早苗、というより女性って難しいなと感じてしまった。

県道を何度か往復し、その入り口は突然見つかった。

自販機が2台並んでいる真横に車1台がやっと駐車できそうなスペースがあり、その先に舗装されていないが「道」と認識できる空間が伸びている。

闇へと続くその空間は十分に恐怖を掻き立て、和也と早苗も眼前に続く闇に気圧されているようだ。

だが僕は別の事が気になっていた。県道を何度も行ったり来たりしたのにどうして見つけられなかったのか?僕は闇よりもその事が妙にひっかかった。

「い…行くか…?」

本来であれば既に逃げ出しているであう和也が声を振り絞り、先導して闇へと歩き出した。

女の子がいるとこうも違うのか、と僕は素直にすごいと思った。

「道」はそれほど歩き辛くはないが、明かりが和也と僕の懐中電灯のみなのでどうしても進みは遅くなった。

最初は雰囲気に飲まれていたが10分も似たような風景が続くと段々と慣れてくるものだ。和也の足取りもしっかりとしている。

「ねぇ…こっちで合ってるの?」

早苗だけは不安そうに周囲を気にしているが、『道』が続いている以上は進むしかない。

そして更に5分程進むと「それ」は現れた。

「本当にあったんだ…」

その『廃屋』は暗闇の中に白い外観を持ち、その空間には明らかに場違いな存在に見える。

元は民家だったのか、何かの施設だったのか、二階建てのコンクリート製の建造物はどちらとも考えられる外観だ。

たくさんの僕達のような人間がやって来ている噂の場所だ、相応に荒らされているだろうと思っていたのだか、ジュースの空き缶等が周囲に若干転がってはいるが、よくある落書き等は全く見られない。

「思ったよりも…きれいな建物だね?」

和也も少し安心したのか、声にも張りがある。

「う…うん…」

対照的に早苗は何か歯切れが悪いように感じる。

『廃屋』の周囲をぐるっと周ってみた。玄関は完全に塞がれているのか扉はびくともしない。窓には厚手のカーテンと格子があり、ガラスが割れているところはあるが入る事は出来そうにない。

「ねえ… こっち!」

和也と一緒に『廃屋』の裏手を見ていた早苗が何かを見つけたようだ。

そこには勝手口と思われる扉があり…扉は開いていた

「開いてる…」

扉が開いている事で恐怖が蘇ったのか、和也の顔が強張る。

扉は風によってかキィキィと微かに動き、僕達を招いているようだ。

「廃屋の中の噂はないのか?」

僕は早苗に聞いてみた。ネットで調査済みだと思ったからだが、早苗は首を横に振る。

「分からないの…入院したり、行方不明になった記述ばかりで建物の中について書かれている記事は見つからなくて…」

この時点で『廃屋』に入るのは避けるべきだったのだが、意外な事に中に入ろうと言い出したのは和也だった。

「おい! 大丈夫なのか和也?」

「そうよ…何か変だよこの建物。もう帰ろうよ」

僕と早苗の意見は一致していた。僕は情報がない事で現実的な怪我等の危険を危惧していたのたが、早苗は先程から何かに怯えているように見える。

「大丈夫だよ。その為にわざわざ来たんだろう」

「それは…そうだけど…」

和也は早苗の手を引くと、勝手口の扉を大きく開いた。

「ちょっと! いや…」

「大丈夫だ…俺が付いているから!」

明らかにおかしい和也の様子に僕が止める間もなく、和也と早苗は『廃屋』の中に消えた。

急いで後を追おうとした僕の目の前で勝手口の扉が閉まる。和也が開けた勢いの反動だと思い扉のノブを回すが…開かない!

まるで固定されたかのようにびくともしない。

僕は『廃屋』の敷地に一人取り残されてしまった。

————————————〈後編〉へ続きます————————————

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