ルルナル『朗読の部屋』百八十四話

 ルルナル『朗読の部屋』百八十四話 

2018年2月10日

ルルナルの『朗読の部屋』 百八十四話を公開しました。

ラインナップは…

『診療所のバイト』

『マンホールの男』

『カラオケ屋の子供』

『交換日記』

の4つのお話です。

皆さんはアルバイトをした事がありますか?

恐らくは何かしらのアルバイトをされた事があると思います。

今回は私の知り合いから聞いたアルバイトに纏わるお話を紹介させていただきます。


『家庭教師のバイト』

中の上クラスの大学に現役で合格した俺は憧れていた「家庭教師」のバイトをやる事にした。家庭教師ってこれまでは自分が勉強を教わる立場だったのに教える側になるわけだ、自分がこれまでとは違う階段を上がった気がしたんだ。

大学の学生課ってアルバイトも紹介してくれるんだな。思い込みかもしれないけど学校の公認だから初めてのアルバイトでも安心だって思った。

実は俺はアルバイトをした事がなかったんだ。年賀状の配達のアルバイトを毎年やろうと思ったんだけど、結局はやらなかったから。そんな俺の初めてのアルバイトで恐ろしい目に遭うなんてこの時は思いもしなかったよ。

俺は土曜の午後に紹介された家に向かった。何でも父親が医者で息子も同じ道を志しているとの事。これは優秀な子供なんだろうと考えながらバスを降りて住宅地の指定された住所を探す。

俺の大学に医学部はあるが俺は法学部だ。普通に考えれば医学部の学生に依頼すべき案件ではないのか?それも入学したての十八歳の俺に紹介されるなんて。今考えればおかしい事ばかりだったが舞い上がっていた俺はその事に気が付かなかった。

指定された家に着いた俺は教えられた住所が間違っていないか、何度も見直す事になった。失礼な言い方だがボロい。玄関の開き戸のガラスにはヒビが入り、欠けている部分もある。木造の家の壁は所々崩れ、屋根から落ちたであろう瓦が地面に落ちていた。古いには古いのだが、人が住んでいる感じがしない。

住所が間違っていない事を確認した俺は恐る恐る呼び鈴を押した。

呼び鈴が鳴ったのかが分からなかったが、3分程待っていると玄関の扉の向こうに人影が揺れた。

ガラガラガラ…

建付けが悪いのか、大きな音を立てて玄関の扉が開く。

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そこに待っていたのは?

「…家庭教師か?」

そこには少なくとも30代後半は超えているであろう中年の男性が立っていた。

「は…はい。 大学からの紹介で…」

男は神経質そうにブツブツ言いながら値踏みするように俺を見ていた。

服もよれよれだし、無精ひげにセットされていない薄い頭髪…こいつが父親の医者か?

医者という者は頭がいいが変わり者、という少し偏見を持っていた俺はそう感じた。

「こっちだ…早く上がれ!」

圧倒されている俺が気に入らなかったのか、男はいら立ち紛れに言うと俺を招き入れた。いい掃除をされていないのか家の中はそこら中に埃が積もり、歩くたびに床がきしんだ。

「あ…あの、、息子さんは?」

「こっちだ…」

暗い廊下の先の部屋に通された。散らかってはいたが勉強机に使い込んだ参考書が山積みにされており、ここが勉強部屋である事が分かった。

「あ、ありがとうございます。 されで息子さんは?」

部屋には俺が教えるべき生徒はいなかった。トイレにでも行っているのだろうか。

「ふぅぅ」

父親が唐突に勉強机に座った…

「今年は合格しなければいけない…早く教えろ」

それから俺はどう行動したのかよく覚えていない。勉強を教えたのか?そのまま家を飛び出したのか? 気が付くと辺りはすっかり陽が落ちた大学の学生課の前に立っていた。

俺は職員が帰り支度をしている学生課に飛び込み、事情を捲し立てた。取り乱していた為になかなか伝えられなかったが家庭教師先の家の名前を伝えた途端、初老の男性職員の顔色が変わった。

「君…本当に○○さんの家に行ったのか?」

「本当ですよ!こちらで紹介されて…痩せて黒縁メガネの男の人が紹介してくれたんです」

学生課の中にはその職員はいなかった。もう帰ったのだろう。

初老の職員は更に驚き、怯えたように言った。

「学生課は女性の職員と、男性は私と彼だけしかいない」

彼、と言われたのは小太りの若い職員だった。俺に家庭教師を斡旋してくれた男性とは似ても似つかない。

「そんな…どうして…?」

二十年程前に医学部進学を医者である親に義務付けられた少年がいた。だが成績はなかなか伸びずに遂に現役で医学部に進学たとしたら卒業を迎える年齢になっても大学に合格する事はなかった。更に数年後、その一家は突然疾走してしまい未だに行方は分かっていない。

そしてその一家は俺の大学に家庭教師を申し込んでいたが、最初は医学部生だったが経済的な負担が嵩み、アルバイト代が高い医学部生ではなく比較的アルバイト代が安価な別の学部の更に一年生を指定するようになったそうだ。そこで大学の学生課の窓口担当は痩せた黒縁メガネの男性だったらしい。噂だがこの男性はアルバイトを斡旋してアルバイト代の一部をピンハネしていたとか…そして彼も一家と同じ時期に行方不明となり、今も見つかっていない。

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