友人の話 『追ってくる過去』 <その4>

友人の話 『追ってくる過去』<その3>はこちら

職場での出会い

直樹に現在と少し過去の恵子の画像を見せられ、約一か月後。僕の職場に中途採用の入社があり入社三年の僕が教育係になった。

「年齢も君と同じだから、よろしく頼むよ」

上司に言われ、僕は受け入れの教育資料等をプリントアウトしながら聞いてみた。

「どんな人なんですか? 特に人員不足でもないのに」

「ああ。何でも帰国子女で英語がペラペラだそうだ。俺たちにはないスキルだろ?」

これからの時代に英会話は必須だと社長が特別枠を作ったそうだ。

「結構な美人だからさ、頼むよ」

仕事にも慣れてきたとはいっても自分の事で精一杯なのが実情だった僕の気持ちは上司にはばれていたらしい。上司と僕は帰国子女が待機しているミーティングルームにむかった。

ミーティングルームで待っていたのは、黒髪ロングの上司の言うようにかなりの美人だった。彼女は僕たちの入室を確認すると立ち上がり。

「野々村と申します。 宜しくお願いいたします」

その仕草も上品そのもので、同年代の女性社員とは一線を画していた。

「課長の鈴村です。こちらが君に仕事をレクチャーする…」

「志村です。英語が堪能なんですね、こちらも色々と教えてください」

突然の後輩の入社、しかも綺麗な女性だ。年の割に固いと自他共に認める僕でも、不適切かもしれないが心が躍るのは当然だ、当然のはずなんだが僕の中で正体不明の感覚が沸き上がっていた。

「じゃあ、志村君。取り合えず一か月は今のスケジュールで頼むよ。野々村さんもまずは会社に慣れる事からね」

僕がモヤモヤした感覚に戸惑っている間に話は進み、課長は退席。ミーティングルームには野々村さんと僕の二人だけになった。

「えっと…野々村さんはフロリダにお住まいだったんですね」

何を話していいかわからず、当たり障りのない質問をしてしまう。

「はい。中学は○○県の女子校に進学したのですが父親の転勤で」

「じゃあ元々は愛知県の方ではないんですか? 僕も地方出身者なんですが」

僕の周りには名古屋市近辺の出身者が多かったので、特に意識しての質問ではなかった。正直ただのコミュニケーション会話だ。

「志村さんが私の指導係で良かったです」

「え…?」

野々村さんの意外な反応に思わず彼女の顔を見ると真正面から目が合った。その整った顔立ちは日本人形のように感じた。

「あっ、すいません。お優しそうな方なので…」

正直、僕は女性が苦手だ。学生時代に手痛い失恋を経験してからというもの、言葉は悪いが信用していない。野々村さんの僕への言動も「何言ってるんだか」と普段なら思うだろう。なのに今の僕は彼女から視線を外すことが出来ないでいる。

この時の僕には「モヤモヤした感覚」の正体が全く分からなかった。

「志村さん? どうかなさいましたか」

いつの間にか野々村さんは横に立っては僕を心配してくれている。少し固まってしまっていたらしい。

「いや…大丈夫です。 じゃあ席に案内しますから行きましょう。野々村 雅美さん」

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