友人の話 『追ってくる過去』 <その3>

友人の話『追ってくる過去』<その2>


大学を卒業、名古屋で就職し三年目のお盆休みに実家に帰省した僕は地元で家業を継いでいる友人の直樹に呼び出された。あの日の「こっくりさん」に関わることだと直感した。

指定された駅前の居酒屋に着くと既に直樹は店内で待っていた。

「おお、久しぶりだな」

「悪いな、折角の帰省中に。ビールでいいか?」

店の奥の目立たない席に座りしばらくはお互いの近況を報告しあっていたが、タイミングを見計らうように直樹が語りだした。

「亜由美って覚えているか?」

雅美と幸子と一緒にあの日の「こっくりさん」を実際に行っていたクラスメイト。成人式の同窓会には来ていなかった。おとなしい子で正直あまり印象に残っていない。

「ああ、同窓会には来ていなかったね」

「五年前から精神を壊して入院しているんだ…」

同窓会の時には知らなかったが、あの時すでに入院していたらしい。

「恵子が近所で謎の勧誘している話、覚えてるか?」

同窓会の時に聞いた衝撃的な話だ、忘れるはずがない。

「ああ、覚えているよ。あの後どうなったの」

直樹はここでビールのお替りを注文した。

「結論から言うと恵子は逮捕されたよ…」

どうやら恵子は一人暮らしの高齢者の財産をお布施と称して強引に搾取していたようだ。認知症や四肢の不自由な高齢者の自宅に上がり込んでは勝手に通帳預金の引き出しも行っていたらしく、家族もたまにしか帰ってこない家が多いので発覚が遅れたらしい。ただ逮捕と言っても対象者が高齢者では立証出来る案件も少なかったのか、詐欺罪としての立件は難しく不起訴処分になったそうだ。

「…酷いな」

僕が言えることではないが若い世代が地元を離れて高齢化が進んでいる地域だ、訴訟を起こすだけの余力もないだう。そんな地域での詐欺行為、「こっくりさん」の事も忘れて恵子への怒りの感情が湧いてきた。しかし、続く直樹の言葉はその怒りを簡単にかき消してしまった。

「恵子さ……本当に恵子なのかな?」

「は? どういう事?」

直樹は運ばれてきたビールを半分ほど一気に飲み干すと同窓会の時期からの話を始めた。※近所からの話や警察関係の知人からの情報も含まれる。

恵子は「あの日」自宅に帰ってから何かに怯えるように自分の部屋に閉じこもり、夜中に大声で暴れて病院に緊急入院となった。両親も医師も原因が分からず学校に問い合わせても要領を得なかったようだ(学校側は「こっくりさん」の事件をあの段階では知らなかった)。大きなトラブルも少ない田舎では噂はすぐに広まってしまう事を懸念した両親と他の生徒への影響を心配した学校との意見が一致し、入院という事実は伏せて親戚の住んでいる別の県の中学に進学する為、環境に慣れるために事前に「転校」したという事で話を合わせた。

「学校や友達が「こっくりさん」の事を話さなかったのか?」

狭い田舎の事だ両親に学校での話が伝わらなかったのだろうか。

「学校は責任問題になるから言わないだろうな、実際あの後に俺たちも何も聞かれなかっただろう?」

先生達に事情を聞かれた記憶は確かにない……雅美たちもそうだったんだろうか?

「クラスのみんなも進学を間近に控えてたし、俺も恵子の事も「あの日」の事も忘れかけていたんだ、恵子が再び現れるまでは…」

恵子は常に何かに怯え、病院で高校卒業の年齢になった。看病に疲れた両親はその日「あの日」の真実をどこからか知ったらしい。

「誰だろうな?」

「さあな…恵子の両親の憔悴ぶりは目に見えていたからさ、親切心なのか興味本位なのか…」

直樹は追加注文したビールを今度は少しずつ飲んで続けた。

それからの恵子の両親は行動を開始した。その時に「こっくりさん」を行っていた元同級生の家に乗り込んだのだ。幸子の家は休みを利用して家族旅行中だったので難を逃れ、雅美の一家はとっくに地元を離れていたから会う事が出来ず、一緒に「こっくりさん」を行っていた亜由美が恵子の両親に捕まった。亜由美の両親も仕事で留守だったが強引に亜由美は恵子の病室に連れていかれたらしい。

「…亜由美って今入院しているんだよな?」

「その日からなんだ……亜由美は入院して、恵子は再び俺たちの周りに帰ってきたんだ」

直樹は残っていたビールを飲み干し、ウーロン茶を注文した。ここまでは酒の力が必要だったのだろうか。

亜由美と入れ違いで退院した恵子が意味不明な勧誘活動を始めたのは退院後すぐだったという。六年余りも入院していた人間が退院後数日でそんな行動に出られるものだろうか。

「俺さ、今の恵子が恵子本人とは思えないんだよ」

冷たいウーロン茶を半分ほど飲み干し直樹が言った。

「変な事言ってるよな?でも俺は恵子と近所で小さい頃から知っているんだ、高齢者を騙すとかある意味知能犯みたいな事は出来ないと思うんだよ。衝動的なケンカとか強盗ならわかるんだけど」

酷い言われようだが言わんとしている事は理解出来る気がする。

「雅美が「こっくりさん」にお願いした内容教えたよな?」

「……ずっと恵子のそばにいてください…だったよな」

どう考えても小学生には恐ろしい言葉だ。

「恵子がずっと怯えていたのは「こっくりさん」がそばにいたから、だと思うんだ。思い込みじゃなくて少なくとも恵子にとっては本物だった……」

確かに、話に聞く恵子の入院時の状態は「こっくりさん」に怯えていたのだろう。でも恵子は退院した、そして入れ替わるように亜由美が入院した。それは亜由美を身代わりにしたと考えるのが普通なんだろうが…

「今の恵子は恵子じゃない、って言ってたよね?」

僕は引っかかっていた疑問を直樹にぶつけてみた。目に見えて直樹が動揺するのを感じた。

「恵子さ……顔が違うんだよ…」

僕は実家に帰ってから直樹の言葉を思い返していた。

「年齢での変化じゃないんだ、十八歳で地元に現れるようになった恵子の顔はまだ面影があったんだよ。でも…逮捕された時の恵子は、誰なんだあれ?」

最初は年齢や環境が(特に恵子の思春期は普通じゃなかった)印象を変えてしまったと思っていたが……

直樹から電子メールで送られてきた恵子を写した二つの画像データが僕のPCに表示されている。

一つは…なるほど、恵子の面影がある。

だがもう一つの画像に写る人物は、明らかに別人だったのだ…

友人の話 『追ってくる過去』その4へ続く

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