中学で一緒だった友人も高校進学、大学進学とバラバラになっていき僕も名古屋の大学に進学して地元を離れていた。
二十歳の成人式の時に始めて同窓会の案内が届き、地元へ変えるついでに参加。そこで懐かしい面々と再会するとともに恵子についての情報を聞く事が出来た。
教えてくれたのは地元に残っていた友人の直樹と幸子の二人。この二人は地元で高校を卒業してそのまま家業を継いでいたのだが長く交際しているらしい。そして幸子は雅美の「こっくりさん」グループの1人だったのだ。
幸子が周囲を気にするように小声で話し出した。
「あの日、「こっくりさん」を行う前にトラブルがあったの。雅美が街の私立中学に進学する事を聞いた恵子が雅美に対して酷い事を言い出したの」
幸子によると田舎の公立中学ではなく私立の、しかも街の学校に進学する雅美に嫉妬したらしく「裏切り者」「田舎をバカにして」等の幼稚な文句から雅美の家族の事も悪く言い出したらしい。
雅美の両親は普通のサラリーマンで特別に裕福なわけではなかった。娘の将来を考えた結果が私立への進学であるだけだと思う。
「雅美も特に気にする様子もなく「こっくりさん」を始めたんだけど、恵子はずっと文句を言い続けていて、雅美が急に変な事を言い出したの」
そこで話を切った幸子を見ると、温かい部屋であるにも関わらず顔色が真っ青になっていた。気が付くと参加しているクラスメートが僕達の周りに集まってきていた。皆の中で小学六年三学期の記憶が蘇ってきたのだろう。
ちなみに恵子も雅美も、そしてあの時「こっくりさん」に参加した残りの二人も同窓会には参加していなかった。
「雅美は…何を言ったんだ?」
誰かが話の先を促す。幸子は直樹に支えられながら怯えるように呟いた。
「これからずっと、恵子の側にいてくれますか?」
僕は鳥肌がたつのを感じた。皆も同じ気持ちなのか二十人程の参加者がいるにも関わらず、嘘のように静寂が訪れた。
「なんて…」
どのくらい静寂が続いただろうか、僕はやっと声を出した。
「「こっくりさん」はなんて答えたんだ?」
「……はい…って…」
答えた幸子は涙声になっていた。
「わ…私は「こっくりさん」をあまり信じてなかったの。友達と一緒にやるのが楽しくて…五円玉が動くのも一緒に指を当てている誰かが動かしているって思ってた……だけどあの時は違うってはっきり分かったの」
「違うって?」
「だって……雅美の質問に驚いた私と亜由美(もう1人の「こっくりさん」実行者)も思わず指を離しちゃって、雅美も指を離してた……なのに五円玉は…動いたの」
そこまで話して幸子は体調がわるくなってしまい、宴会部屋に座布団を敷いて少し休ませる事になった。
「俺も「こっくりさん」の事は聞いた話しか知らないけど…恵子の事なら知ってる事がある」
僕も皆も何も言えずにいると直樹が幸子の話を引き継いだ。
「恵子の家は俺の近所でさ、家族はあの後も住んでるんだよ。恵子が転校したのかははっきりしないんだけどさ、姿を見る事はなかったんだ」
転校したとしても家族が住んでいるのに一度も恵子の姿を何年も見ないのは、狭い田舎では確かにおかしい。
「でもさ…地元に残っているやつらは知ってるかもだけど、最近恵子に会ったんだよ」
地元に残った何人かのクラスメイトの顔が険しくなるのがわかった。
「あいつ…自分は「神の代理人」だって近所に宗教の勧誘みたいな事してるんだよ。平日も休みも夜中でも関係なく近所のチャイム鳴らしてさ…」
「うちも来たぞ」
「私の家にも来たって…お母さんが…」
「夜中でも平気で勧誘したり、断ると『呪うぞ!』とか大声で叫ぶからさ、警察沙汰になってるみたいだぜ。あいつは早生まれでまだ未成年だからな、これからどうなるのか…」
僕の中での小学生の恵子の記憶では高圧的な部分は変わっていない印象だったが、どちらかというと世間体や周りからの見られ方を気にする女の子だった気がして、今の恵子とは中々結びつかない。
「雅美は?今どうしているのか誰か知らないのか?」
僕は皆に聞いてみた。結果は誰も知らないとの事。両親はあの後すぐに転勤で引っ越してしまい、雅美が進学した私立中学には他には誰も進学していなかった。
同窓会が終わり、実家で両親に恵子の事を聞いてみたが町内が離れていたので何も知らなかった。
何だろう…何年も前に起きた事なのに、それが今もあの教室にいた人間に絡み付いているような不気味な感覚を憶えた。
雅美は霊感絡み以外は明るく、可愛い女の子だったし正直僕も憧れていた。でもあの日、恵子が騒いで教室を飛び出した時の雅美の無表情な顔は今でも忘れられない。どんな気持ちで「こっくりさん」にあんなお願いをしたのだろう。
あのまま恵子が地元に現れなければ、子どもの頃に起こった不気味な話で終わったのかもしれないが……僕にはまだ何かが起きるような気がしてならなかった。